バレエダンサー 西島千博 vol.4

テレビの世界から劇場へ
帰国してから気がついたフランスと日本の違いには、圧倒的に日本が情報社会ということでした。当時でもテレビをつければ情報が溢れかえっている、今はもっと顕著でインターネットの発達で欲しい情報が実際に足を運ばなくても得られてしまう。メディアを通じて何でも知る事ができるので劇場に足を運ばなくてもわかったような気になってしまえるのです。芸術や文化に触れることは、人間の本質の大切な部分だと思いますが、日本の社会はなかなか実際の姿に触れる所までいかないという壁にぶつかりました。

しかし逆転の発想でメディアを利用して劇場へ足を運ぶきっかけを作る事が出来るのではないかと思い始めました。帰国して間もない頃に街中で芸能界へのスカウトを受けたのですが、もしかしていいきっかけになるかなと思ったんですね。モデルとして代々木体育館でコレクションな出た際にはステージで踊ることになってダンスとの融合のファッションショーとなりました。そのショーの際にもスカウトを受け、更にはバレエの上海公演の時には中国の芸能関係の方からも声をかけていただき自分の活動の場が変わる気がしました。

クラシックバレエと両立しながら芸能界での活動をすることになり、大きな転機となった作品が池袋ウェストゲートパークというドラマでのバレエダンサー役でした。ドラマの監督からそのまま映像の中に入ってつくり込まず雰囲気をだしてくれればいいと言われ出演しました。公園で踊るシーンが当時テレビを観ていた人に印象に残ったようで『ドラマの中でバレエを踊っていた人は誰だ?』と話題になり、より多くの人に僕の名前を知ってもらうきっかけになりました。メディアを通じてダンサーとして表現の場を得られたというか、そこから映画やテレビ、ラジオやバレエ以外の公演も以前より客層も広がりました。一つのチャンスでこんなに影響力を持つものなのだなあと感じました。バレエの舞台で注目されてテレビに出るのではなく、映画やテレビなどのメディアで認知されてバレエの舞台へ今までと違う客層を誘導するという逆転の発想ですね。


(AIVA Vol.3 保存版より転用)

次回、新しい試みとベースであるクラシックバレエとのバランス